2025.9.20 O.A.
歴史と伝統の技術を転用
熊野町に次いで、筆の生産が盛んな呉市川尻町。古くから筆の町として書道用高級筆の生産が盛んだった。しかし、昨今の少子化などから町の伝統産業である筆づくりは生産が減少傾向にある。
その中で、赤ちゃんの髪の毛を筆に加工することで業績を伸ばし、新しい業態を創造したのが光文堂だ。職人による伝統の筆づくりを基礎としながらも、次々と新商品を生み出している。
会長の吉村光雅氏は約50年前の20代のころ、祖父の代から家業にしていた筆づくりについて「将来この業界はビジネスとして続けられるのか?」と、常に自問自答し、葛藤していた。
そんな時、あるお客の声をきっかけとして、一本の赤ちゃん筆を制作した。赤ちゃん筆は、生まれて初めてカットした髪の毛で作る一生に一度の筆。納品するとお客が大層喜んだという。「こんなにも喜ばれる商品なのか」と、吉村光雅氏は衝撃を受ける。
書道用の高級筆を制作していた光文堂の職人が手掛ける赤ちゃん筆は、品質が素晴らしいと、ネットがない時代にどんどん口コミで評判が広がっていった。そして、光文堂は書道用筆の製造をやめ、赤ちゃん筆製造一本へと舵を切っていく。
社長の吉村和紘氏は語る。「光文堂のこだわりは、全商品社内一括管理、内製化で製造。一つ一つ、一品一様だがこだわりをもって制作している」。
また、赤ちゃん筆の受注を、地域の取扱店、理髪店・美容院と提携する営業戦略で、現在もなお全国に取扱店を増やしている。
堅調に見えた会社の経営だったが、折からのコロナ禍で、どうにかして新商品を開発しなければならない状況に。全く新しいビジネスを考えていた時に、社員から「くせ毛をそのまま商品にしたらどうか」というアイデアが出て、商品化した結果、ヒット商品に。
今までは縮毛矯正のように、くせ毛を直毛に加工して赤ちゃん筆にしていたが、カールをそのまま活かした「カール筆」として商品化することで、加工の手間が減ったことも大きかった。また、今まで以上に筆を飾るためのディスプレイもこだわり、格調の高い記念品とすることにも成功した。
社長の吉村氏は「いかに時代に合った変化で筆づくりを継承するか。メーカーとしても重要だが、何よりもお客様に喜んでもらうための商品作りにこだわりを持って、お客様の声を商品にフィードバックさせる。そこが一番重要」と語る。
また、新しい商品展開としてペット商品もリリース。筆職人の社員が実際に愛犬を亡くした経験から、愛犬の体毛を使ってグッズを制作した。担当者は、愛犬を思い出しながら、時々毛の感触を味わっているという。
また、光文堂では、風通しのいい職場環境を大切にしている。そうした風土が、新しい発想を生む土台なのかもしれない。
今回のポイントは『デザインに注目』
―赤ちゃんの筆、すてきですよね―
光文堂は赤ちゃんの筆専門の筆メーカーとのこと。文房具や化粧筆のラインナップはなく、専門だからこそ、お客様の声を大切にしていくつかのブランド商品を開発している。江戸時代の1800年に創業し、昭和となって「胎毛筆」を開始、専門となって現在は胎毛筆のトップメーカーとなっている。
―筆もケースもカチッとしたものからかわいいデザインまでいろいろ~―
胎毛筆を始めたのはお客様からの声。そしてバリエーションがいろいろと増え、カールしたくせ毛をそのままに残す製品など、お客様の声に応えていくことが商品になっている。ここで大切なのはお客様の声を実現するために、思いを目に見える形にすることにある。
―デザインに注目ですね~―
社内にデザイナーがおられて、要望を形にするとともに自社のコンセプトを体現するデザインは、商品を知ってもらい、かわいいと言う共感を持ってもらい、赤ちゃんの成長と思いを残すために購入しよう、につながっていく。吉村社長はインタビューすると、商品のストーリーには特に配慮されていた。また、お客様にいかに喜んでもらえるかに思いをよせている。これが、多様な商品展開、幅広い価格設定、販路とブランド展開を集中的に広げることにつながり、専門会社だからこと特化したサービスにつなげられ、ノウハウが積みあがる。
―歴史もあるし、赤ちゃんの筆に特化したからこそのノウハウもある―
自社内で一貫生産をしている点も知的財産を高める要因ともいえる。吉村社長に受注品の管理は大変では? と聞いてみたところ、お客様に満足して頂くためのIT化DX化は進めており、多くの工程を経て作られる中で、個々の製品が今どの工程にあるのか、すぐにわかるシステムとして管理もしっかりしているそうだ。
―動物の赤ちゃんにも広がるようですね―
将来の人口減が予測される中、家庭で飼われる動物の赤ちゃんへ広げている。期待の商品になっていく。赤ちゃんに特化している中で、人間から動物へ範囲を広げることで、課題も出るが、それを解決し、特有のビジネスモデルを構築すれば専門性も高まる。
企業の強みをいかに伸ばしていくか、そのポイントはデザインにあると言える。優れたデザインを生む光文堂の発展に期待したい。
会社名 | 株式会社光文堂 ![]() |
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業種 | 筆製造販売 記念品・ギフト商品販売 |
事業内容 | 筆製造販売、記念品・ギフト商品販売、理美容関連商品製造販売、輸入商品販売、他 |
代表者 | 代表取締役 吉村和紘 |
従業員数 | 70人 |
所在地 | 広島県呉市川尻町東3-10-45 |
お問い合わせ | 0120-474-120 |
ホームページ | https://koubundo.info/ |