2025.07.19 O.A.
見えないところで社会を支える歯車
自動車、産業用ロボット、医療機器など現代社会に欠かすことができない機械製品。
その動きを見えないところで支えているのが「歯車」。
その歯車の生産で日本で唯一の技術を持つ企業が福山に本社を構える岡本工機。
1944年、群馬県で工作機械製造を行う親会社、岡本工作機械製作所が、戦時中の疎開工場として福山市松永町に『岡本工作機械製作所 広島工場』を設立したことから始まり、以来80年以上、歯車を作り続けてきた。
歯車のプロが頭を悩ませる問題があった。
歯車を研磨した際に表面につく目には見えない筋。
歯車を動かした時の振動に繋がり、騒音や機器の故障などの原因となる。
「この歯車に付く筋をなんとかできないか?」
あるとき社員が漏らした一言が、菊地社長にひらめきをもたらした。
「超音波を使った加工でこの問題が解決できるのではないか?」
歯車を削る砥石を超音波で細かく振動させることで、まっすぐ並行に並ぶスジではなく、波打った削り跡を作れば、高周波の原因をなくすことができるかもしれない。
実用化に向けた挑戦の日々が始まった。
超音波の波をいかに効率よく、歯車を削る刃物の先端に伝えるか?
刃物を固定するベアリングが超音波の振動で壊れないようにするには?
さらに、砥石の先端につける砥粒の素材や刃の形など、その研究範囲は多岐にわたり、研究期間は10年にも及び、2015年に生まれたのが、日本で唯一の技術「超音波援用加工」。
削り跡に波打つような模様ができ、ここに潤滑油が入ることで、振動を減らし、耐摩耗性も向上する。
この技術により、分速5千回転までしか回せなかった歯車が、1万回転まで回すことができるようになり、振動が減ることで、故障が激減した装置もあるという。
この日本で唯一の技術の誕生を支えたのが、岡本工機が誇る一貫生産体制。
材料さえ用意すれば、旋盤・歯切・熱処理・研削等の全工程を社内で行うことができるのだ。
さらに尾道工場では、歯車を作る工作機械まで作り、販売も行なっている。
こうした背景があるからこそ、日本で唯一の技術を生み出すことができたと言える。
こうした徹底した内製化により、月に1000種類の歯車を出荷し、1個から10万個まで受注できる。
その製品は、産業用ロボット、船外機、自動車、草刈り機、電動工具、医療機器など、社会のあらゆるところで、見えないながらも働き現代の工業を支えている。
歯車とは、モノづくりの難しさ、そして面白さを知るエンジニアの挑戦が生んだ結晶なのだ。
今回のポイントは「表面を極めれば」
ー歯車は機械を動かすために欠かせない部品ですねー
自動車、産業用ロボット、医療機器、エンジン、電動工具など動く機械に使われています。回転の速さや向きを変えたり、回転運動を直線運動に変えたりと、その用途は多岐にわたる。
歯車は力をペアの歯車同士が接触して伝えている。歯車の表面はきれいに仕上がっているようでも微細なスジが原因で、機械の寿命やエネルギー伝達効率に悪影響を与えるのです。
ー今回のポイントは表面を極めれば、すごいことになる?ー
そう、「表面を極めれば」すごいことが起きた。
歯車専業メーカー 岡本工機が10年かけて開発した“超音波歯車研削加工技術”。よ~く見ると特有の加工痕跡が見える。加工砥石に超音波振動を与えることで摩擦が軽減し、歯車から発生する音や振動を抑えられる。超高速回転まで対応できる優れた歯車になる。
ーすごいので簡単に製品にはならないのですねー
こうした技術革新が生まれた背景には、歯車の製造から始まり、やがて製造のための加工機械を開発し、加工技術・生産技術、品質管理など一貫生産体制から生まれるものと言える。特に歯車は接触回転するので、旋盤・歯切・熱処理・研削、加工するための治具や砥石の成型まで総合的に考えて行く。歯車はずっと昔からある機械要素部品でも、まだまだ進化する部品が期待できる製品ともいえる。すべて自社内で開発しているからこそ、試行錯誤を繰り返し、VA・VEと言った商品価値向上を図れるすごい生産技術が実現する。桑原的には超感動技術なのだ。
ーその技術、知的財産管理技能士としては活用したくなりますねー
この技術は「歯車研削装置及び歯車研削工具」として特許登録されている。岡本工機は、自社で加工するだけでなく、技術の普及促進も注力し、大学との共同研究や超音波振動ユニットの展開も視野に入れている。
「表面を極めれば」高速回転の静音化・耐久性向上が見込まれる画期的技術開発ができた。その成果は知的財産権により産業界全体に貢献することが期待される。ぜひ活用が進み、すごい歯車が世界が静かでよりスムーズな機械に使われることを願っている。
会社名 | 岡本工機株式会社 ![]() |
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業種 | 製造業 |
事業内容 | 歯車と工作機械の設計・製造・販売 |
代表者 | 代表取締役社長 菊地正人 |
従業員数 | 332名 |
所在地 | 広島県福山市金江町金見2050 |
お問い合わせ | 084–935-9191 |
ホームページ | https://www.okamoto-kouki.co.jp/ |